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2011/02/22

映画「平成ジレンマ」 

 戸塚ヨットスクール事件のその後を追ったドキュメント映画「平成ジレンマ」(東海テレビ制作)を見た。

 この映画の上映が始まる直前まで、映画館の座席の具合がほどよくて、眠くて仕方がなかったが、本編が始まって、目が覚めた。あの記憶に残る「体罰」と称する暴力の記録映像が挿入されていたからである。
 
 戸塚宏氏は、服役後も健在で、戸塚ヨットスクールは、いまも愛知県美浜町にある。映画のタイトルに、齋藤監督の考えがこめられているのだろう。事件自体は「昭和」に起きたが、「平成」のいまも「問題児」をめぐる教育の「ジレンマ」は未解決ということらしい。戸塚ヨットスクールを存続させる社会を問う内容といってよいだろう。

 「啓蒙」されたのは、ヨットスクールの建物屋上から飛び降りた女性が背負っていた事情である。彼女は、精神神経科で薬を処方されていたらしい。ひきこもりがちで、病気を抱えた女性を受け入れた戸塚氏にも逡巡はあったようである。彼の苦悩する姿をとらえたのは、この映画が初めてではないか? マスメディアの報道陣が戸塚氏に的外れな質問を繰り返す様子は、戸塚氏に嫌悪感をもつ者にも、異様だと思えた。この映画がきわめて重いテーマを取り上げ、「事実」に迫ろうとした迫力は、この場面から伝わってくる。

 しかし、きわめて挑発的な映像を見るにつけ、いくつかの疑問も湧いてくる。戸塚氏は、「事件」後、一応、「体罰」を封じたらしい。ところが、講演会などで、いまだに「体罰」の教育効果に自信をもっているような発言を繰り返している点である。「体罰を禁止した結果、どうなったか」と開き直り気味である。ムービーカメラのレンズが向けられていないところで、いまも「体罰」があるのではないかという疑念が残る。現にカメラは、ヨットスクールに入寮している青年、子ども同士の間で、小突いたり、暴言を吐いたり、跪かせたりする暴力を映し出していた。温かな雰囲気が感じられない。脱走する若者が出るのも当然というべきであろう。

 戸塚ヨットスクールに子どもを連れてくる親は、貧乏ではない。毎月11万円を払い、入学に300万円を超えるお金を用意せねばならない。この映画では、子どもたちに喝を入れる教員側の証言が少なく、戸塚氏本人に真相をもう少し語らせてほしかった。あるいは、あまり本音を語らない人なのかもしれないが。やはり教育に「体罰」は必要なのかという絶望的な見解に誘導しかねない側面もあり、戸塚氏を応援するグループに迎合するような印象も免れない。

 あるいは、戸塚氏本人の口からしか問題解決の道を語らせないところも、この映画の訴求力を狭めているように思う。カメラの前の子どもたちは、意外にも素直で快活で、陽気で明朗ですらある。なぜ親は戸塚ヨットスクールに子どもを預けるのか。ある親は狂気に近い凄まじい言葉を述べて、子どもを入校させた理由を明かしている。本当だろうか。子どもは、親を選べない。それに引き換え、指導者側は疲れた様子で、沈鬱な表情で、暴力的な言動をとる場面も決して美しくない。それだけ彼らの苦悩も深いということなのだろう。

 とはいえ、当然のことながら、表だった「体罰」をふるうことは、戸塚ヨットスクールですらできなくなっている。時代は変化したのである。それでも、子どもをめぐる日本の環境は改善されたとはいえない。最低でも、子どもと向き合う親の生活を豊かにすること、長時間労働をなくすことは急務と言いたい。

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