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2008/11/24

NNNドキュメント

 日雇い派遣を取り上げた日本テレビ放送網制作のNNNドキュメント08(放送:11月24日午前1時半~)を見た。

 千葉青年ユニオンの前田奈津恵さんが出ていた。まったく面識はないが、新聞報道その他、電車でも見かけたことはあると感じさせる方だった。年齢を重ねてくると、既視感が増してくるように思う。これをボケ、呆けというのかもしれない。絶望的な胡蝶の夢か。

 前田さんたちが、街頭でアンケート活動をしていて、ある青年がみずから状況を「ドナドナ」で説明していた。現場へ運ばれてゆく派遣労働者の姿を、「♪ある晴れた昼下がり、市場へと続く道…ドナドナドーナードーナー…」の歌に例えていた。ドアを閉められた真っ暗なトラックで運ばれていく派遣労働者の姿は、荷馬車のイメージを超えている。ナチス・ドイツのもとで、ユダヤ人が強制収容者へ運ばれてゆくときも「ドナドナ」が口ずさまれたという話を聞いたことがある。

 どんな状況に自分たちがどのように生きているかを知りながら、なおもそこから脱出できないのを、地獄というのではないだろうか。

 番組では、厚生労働省との交渉の場面も映っていて、「派遣にニーズなんてあるわけがない」との前田さんの勇気ある、迫力ある現状告発の言葉が、いまの政治の在り様を直截に物語っていた。そう、日雇い派遣にニーズがあるなんて、大企業の本音を隠した偽装言葉にすぎないのだ。いま何よりも真っ先に解雇の対象になっているではないか。
 人間使い捨て。人間を利益を生み出す道具とだけと見る倒錯。資本主義なんて、もういい加減に止めにしようよ。

 しかし、番組を見て感じたのは、横道にそれるようでお恥ずかしいが、密着ドキュメントは、その密着度、客観性が難しいということだった。ともすれば、取材されている人の体温が伝わらず、逆に、よそよそしい映像になる恐れがある。今回の番組に登場した人たちは、どうしようもない状況に抗して、なんとか生きぬく道を探している人たち。なぜ、苦難に満ちた状況を強いられているのかを伝えないと、麻生太郎の「暗い顔するな」発言のように、的外れな見解に転化する可能性もある。取材する側は、取材される人のよそよそしい部分だけを切りとってしまう可能性がある。一人の人間には、多面的な活動があり、微妙な気分、感情がある。少なくとも、今回のドキュメントでは、難しい取材に挑戦していた。その難しさ加減が、この番組を見ていた人に伝わったか。心配である。当たり前のことだが、番組を制作し、取材に協力している人たちは、少なくとも現状をよしとしていない。

 番組に登場していた夫婦。仮名だろうか。子どもを乳児院に預けざるをえない境遇にあるのは、もはや「深刻」を通り越している。乳児院の職員は、精一杯、子どもたちに愛情を注いでいるだろう。けれども、親と子を引き裂くのは、事情の如何を問わず、避けるべき一大事と思う。乳児院で親に手を振る子どもを撮影した映像は、日本の貧困を端的に示す。

 『エミール』を著したJ.J.ルソーは、子どもを「乳児院」のようなところに預けたという御仁もいるかもしれない。それは、ルソーの謎、『エミール』の矛盾である。むしろ、『エミール』を書く動機になったかもしれない。ルソーと違い、あの夫婦は、育児放棄をしたわけではない。日雇い派遣労働者として生活すると、育児が不可能になる残酷な事実をつきつけられた人たちなのだ。なぜ、あのような選択肢しか残らないのか。問いかけがある。

 番組制作は、ディレクター水島宏明、プロデューサー日笠昭彦。日本テレビ放送網報道局報道番組部長の後藤東のトリオ。続編を作りつづけている猛者たち。

http://www.ntv.co.jp/document/

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